のび太と奇跡の島

 『ドラえもん のび太と奇跡の島 ~アニマル アドベンチャー~』を観てきた。ネタバレになることを顧慮して、いつも通り続きの方へ書いておく。

 世間の評判がよろしくない様なので、期待しないで観にいったのだが、そのおかげもあるのかもしれないとはいえ想像していたよりは楽しめた。子供時代ののび助註1)と一緒に冒険するというコンセプトは今までのドラにはない発想。臆病なのび太と似ているのだがのび太よりは少し勇敢という性格付けで、声優が野沢雅子ということもあり魅力的なゲストキャラクターになっていた。
 のび助が画家になりたいという夢を持っていて子供の頃に全国図画コンクールで金賞を取ったことがあるという原作の設定註2)を取り入れ、そのためにダッケは絵が上手いというのも良かったと思う。

 物語は短編「モアよ、ドードーよ、永遠に」註3)を下敷きにしているというが、採用されているのは絶滅動物が離島で保護されているという根幹だけで(保護したのもドラえもんとのび太ではない)、その島に住まう黄金のカブトムシ「ゴールデンヘラクレス」を狙う密猟者との対決という構図はどちらかと言えば大長編『のび太の恐竜』を原案と言ってもいいように思う。
 ダッケ以外のゲストキャラも良かった。ケリー博士の声が田中敦子だったので、外見に比して色気がありすぎるのにはちょっと笑ってしまったが。

 でもまあ想像よりは楽しめたという程度で、良作であったかと言うと全然そんなことはない。全編を通して伏線が張られておらず、物語が唐突に進む。父子の絆を印象付けたいのであろうが、突然「ぼくの生まれた日」註4)の挿話が入ったりするのはさすがにちょっとわざとらしすぎるように思う。同じ原作の話を挿入するにしても、どうせ子供ののび助を出すのであれば「タイム・ルーム昔のカキの物語」註5)とか絡めてくれれば面白かったが……。原作中の台詞が唐突に挿入されたのは何だったのかなあ註6)。ファンへの奉仕のつもりなのかもしれないが、ちっとも面白くなかった。
 他にはダッケがのび太の上位互換とでも言うような立場なので、今作ののび太はほとんどいいところがなくあまりに情けないとか、スネ夫の口の描き方が嘴状になっておらずに違和感があったりとか主キャラクター周りにはいろいろと不満がある。

 その主キャラクター周りで今回一番不満だったのは、しずちゃんの描かれ方である。スネ夫らが人質になり救出計画を練る場面、ドラえもんの道具がほとんど修理中で助けに行くにも有効な武器がない現状にのび太が臆して混乱するのだが、そののび太に対してしずちゃんが憤慨する。あたかも勝つ見込みがなくても、強敵に向かっていけとでも言わんばかりにだ。藤子・F・不二雄の作り出したドラえもんの世界は精神論で弱者が強者に勝てる世界観ではなく、その登場人物の中でもしずちゃんは理性的な方だ。そのため、この描写には大いに違和感を覚えた。あの場面ではのび太をなだめて何か方策を考えましょうと冷静かつ思いやりを持って言うのが大長編・映画での彼女のあり方ではないだろうか。

 次こそは、と期待しつつもうわさドラになって7作目。良作と思えるのは『新魔界大冒険』と『新・鉄人兵団』の再映画化作品のみ。そろそろ大長編を原作に持たない新作で良作と言える作品を作って欲しいなと思う。
 映画最後のおまけ映像にはシャーロック・ホームズセットを纏ったのび太が登場していたので、何か探偵物のような作品になるのだろうか。新作になりそうなのでやっぱり期待と不安を持ちつつ、それでも来年を楽しみにしていようと思う。

■註
  1. のび太の父、劇中では記憶を失いダッケと呼ばれる。
  2. 前者はてんとう虫コミックス6巻(以下てんとう虫コミックス○巻とだけ表記)は「この絵600万円」・43巻「のび太が消えちゃう?」、後者は31巻「あとからアルバム」。
  3. 17巻。
  4. 2巻。
  5. 40巻。
  6. 中でも「二、三ミリやせたんじゃない?」という台詞は無理矢理すぎる。本来は「ションボリ、ドラえもん」(24巻)中で久しぶりに逢ったドラミが言う台詞だが、劇中ではしずちゃんが敵の攻撃を受けたドラえもんに対して言う台詞として登場した。

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